高齢になった犬と猫のために
大切な家族の一員、犬と猫。獣医療や栄養学の発展、飼い主の皆様の意識の向上と共に、犬と猫の平均寿命はずいぶん長くなってきました。でも残念なことに、犬と猫は私たちよりもずっと速いスピードで年をとってしまいます。成犬や成猫の1年はヒトの約4~5年に相当すると考えられており、私たちが1歳年を重ねるたびに犬や猫は4~5歳も年をとることになるのです。
犬や猫の寿命が伸びてきた今、高齢と呼ばれるライフステージにある犬と猫が増えています。まだ若いと思っていたあなたの犬や猫も、いつの間にか高齢ステージになっているかもしれません。
1.高齢はいつから
いつから高齢と考えればよいのでしょうか?
一般に、7〜9歳以上が高齢ステージとされていますが、犬では小型犬の方が大型犬よりも寿命が長く、猫でも、品種によっても若干の差があるようです。
また、同じ品種・年齢であっても、元気に走り回る子もいれば、関節炎などの影響で歩きたがらない子もいます。年齢だけではなく、日頃の行動から高齢のサインを見つけることも大切です。
高齢のサイン | 可能性のある老齢性疾患 |
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眼が白く濁ってきた | 白内障 |
歩き方がぎこちない、びっこを引く | 関節の病気 |
散歩に行くとすぐに疲れて息があがる、咳をする | 心臓病 |
水をたくさん飲む、尿の量も増えた | 腎臓病、糖尿病、副腎の病気など |
夜鳴きなど、混乱するような行動が増えた | 認知症 |
物にぶつかるようになった | 視力の低下 |
名前を呼んでも反応が無い | 聴力の低下 |
2.加齢と体の変化
年を重ねるにつれて体の機能が低下していくことは自然なこと。加齢によって体にどのような変化が起こるのでしょうか。
加齢に伴う体の変化 | 関連する傾向 |
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回復能力の低下 | 傷の治りが遅い、疲れやすい |
免疫力の低下 | 感染しやすい、腫瘍が出来易い |
環境の変化やストレスに適応する能力の低下 | 食欲の低下・沈うつなど |
筋肉量の低下、関節機能の低下 | 運動能力・体力の低下 |
基礎代謝量が低下し、必要な食事カロリーが減る | 肥満になりやすい |
聴力・嗅覚機能の低下 | 反応性の低下、食欲の低下 |
3.加齢による変化を早期に見付けよう
高齢になるにつれて増えていく病気は、なるべく早期に見つけたいものです。病気は早い段階で治療を始めることが大切。早期に問題を発見できれば、進行してから治療を始めるよりも効果的に治療出来ることが多く、薬や食事療法を開始して、体の負担を軽くしてあげることが出来ます。早期からサポートを始めることによって、その後の生存期間の延長も期待できるのです。
定期健康診断を活用して、加齢とともに生じるいろいろな問題を出来るだけ早く見つけて進行を遅らせ、合併症を予防しましょう。また健康診断などの予防医療の費用は、病気が進行してからの治療にかかる費用よりも、長期的には経済的であることが多いのです。
4.健康診断のすすめ
健康診断には色々な検査がありますが、全身をくまなく精査して異常を見つけようとするのは、動物にとっても飼主さんにとっても大変なことかもしれません。基本検査にプラスして、動物種や品種、病歴、生活習慣などから、その子にとってリスクの高い病気から優先的にチェックするとよいでしょう。
犬や猫の1年が人間の4年分に相当することを考えると、少なくとも半年~1年に1回は健康診断を行うことが推奨されます。
健康診断
身体検査
視診(見る)、触診(触る)、聴診(聴く)、による全身の身体検査は健康診断の最初のステップです。
検査箇所 | 検査内容 |
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目・鼻・耳 | 眼科疾患・耳鼻科疾患 |
口腔 | 歯周病、口の中の腫瘍などをチェック |
リンパ節や甲状腺 | 大きさをチェック |
皮膚・被毛 | 皮膚や被毛の状態、皮膚腫瘍などのチェック |
心音・呼吸器 | 心雑音や拍動リズム、呼吸音のチェック |
腹部 | お腹の臓器の大きさ、形、位置、しこりなどを触診 |
体重 ボディーコンディションスコアー |
体重の増減・肥満度のチェック |
血液検査
血液から体の様々な情報を得ることが出来ます。
検査箇所 | 検査内容 |
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血球成分 | 白血球や赤血球、血小板の数や性状 |
血液生化学 | 肝臓や腎臓の機能、血糖値、コレステロール、電解質など |
内分泌(ホルモン) | 甲状腺や副腎などのホルモン分泌機能 |
ウイルス感染 | 猫エイズや猫白血病 |
尿検査
主に腎機能、尿石症、尿路感染などのチェックを行います。
検査箇所 | 検査内容 |
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尿比重(尿の濃さ)・尿たんぱく | 腎臓機能のチェック |
尿pH(尿の酸性・アルカリ性) 尿結石となる結晶の有無 |
尿石症のチェック |
尿中の細菌の有無 | 尿路感染のチェック |
尿中の細胞成分 | 膀胱炎や腫瘍の有無など |
レントゲン検査・エコー(超音波)検査
レントゲンやエコー(超音波)検査では、体の中の構造を画像で見ることが出来ます。レントゲン検査は一度にいくつもの臓器がチェックできますが、細かい病変を見るのは少し苦手です。エコー検査は毛を刈り、少し時間はかかりますが、細かい構造や動きの評価が出来ます。これらの画像検査のおかげで、体の中に出来た腫瘍を見つけたり、心臓病などの色々な病変が確認出来ます。
眼科検査
スリットランプで拡大して眼瞼、結膜、角膜、前眼房などの異常が確認出来ます。また眼圧計で緑内障の早期発見、眼底カメラで網膜、視神経などの異常が確認出来ます。
心電図検査
心臓病は犬では悪性腫瘍についで2番目、猫では3番目に多い疾患です。しかし投薬等の治療処置により、心臓病は一定のコントロールが可能な疾患です。心電図定期検査は、心臓の異常や危険な不整脈の早期発見につながります。
高齢動物のために自宅で出来ること
高齢になった犬猫のために、毎日の生活で気をつけたいことを見ていきましょう。
高齢動物のための食事
ライフステージに合わせた食事は、予防医療には欠かせませんが、「全ての高齢動物に共通の最適な食事」があるわけではありません。何かしらの健康上の問題やリスクがある場合は、それに合わせた食事が推奨されます。健康診断の結果によっては、特定の栄養素の制限または補充が必要です。例えば、腎臓病では、リンやタンパク質の制限、心臓病では食塩の制限やタウリン、カルニチンという成分の強化などが推奨されています。このような栄養学的サポートにより、病気の進行を遅らせることが期待されています。
まずは、健康診断を行い、それぞれの犬や猫に適した食事を見つけて下さい。
肥満の予防
肥満は心臓病や関節病、皮膚病などの様々な病気のリスクを上げ、生存期間を短くしてしまうことが分かっています。高齢になると基礎代謝が低下し、筋肉量や運動量も減ってくるので、それまでと同じ食事を同じ量与えていると肥ってしまうのです。年齢に配慮した食事や、健康診断の結果から選んだ食事を適量与えましょう。給与表の量はあくまでも開始時の目安です。計量カップを使って、その後の体重の変化によって量を調節してあげる必要があります。
肥満になってしまった場合は、健康的に減量できるように、カロリーを控えても必要な栄養素を満たせるように設計された食事が推奨されます。
運動の加減
肥満の予防や、関節を助ける筋肉を維持するために、高齢になっても適度な運動が推奨されます。関節炎や心臓病などの持病がある場合は無理な運動は禁物ですが、運動を完全にやめてしまうと筋肉量が減り、体力も落ちてしまいます。高齢動物では一度筋肉が落ちてしまうと、再び筋肉量を増やすことは難しくなるので、ゆっくり歩きながら散歩するなど、可能な運動量を見つけましょう。また若齢の活発な犬や猫と遊ぶ場合は、高齢の犬と猫の負担にならないように気をつけてあげましょう。
高齢になると増えてくる病気
- 犬:
- 腫瘍、心臓病、関節疾患、歯科疾患など
- 猫:
- 腎臓病、歯科疾患、腫瘍、内分泌(ホルモン)の病気など
歯科疾患に気をつけよう
3歳以上の犬猫の80%が罹患している歯周病は、加齢とともに進行してしまいます。歯の痛みはつらいもの。犬や猫は痛みを訴えられず、「何となく食欲がない」「元気がない」などの漠然とした理由で来院し、病院で歯科疾患が見つかるまで長期に見過ごされてしまう場合が多く見られます。治療をすると、「まるで性格が変わったみたいによく遊び、よく食べるようになった」との声も聞かれます。これは長い間痛みに耐えてきた、ということかもしれません。
歯の病気は血液を介して心臓や腎臓にも悪影響を及ぼすことがあります。小さい頃からのホームデンタルケアーを心がけ、歯科疾患を見過ごさないように日頃から気をつけてあげましょう。
【チェック1】口の中を見てみよう
顔の横側から唇をめくって歯の外側をチェック。その後、口を開かせて歯の内側をチェックします(上下左右)。なるべく手早く行うのがコツです。
- 歯の周りの歯茎が赤くなっていないか、腫れていないか、出血していないか。
- 欠けている、もしくは折れている歯がないか
- 歯(特に頬側)に歯石が付いていないか
- 口の中に出来物がないか
【チェック2】歯科疾患を疑う行動
下記の症状が見られたら、なるべく早く動物病院に相談しましょう。
- よだれが多く、口の周りを触らせない
- 片側の歯だけで噛んでいる
- 口臭がきつい
- 食べにくそう(食事時間が長くなった)
- 硬いものを食べたがらない
- 食欲がない
聴力が落ちてきたら
「名前を呼んでも無視することがある」「近寄った時に気付かず、触るとびっくりすることがある」などの行動は聴力が落ちているサインかもしれません。聴力が落ちてきた犬や猫は家族が近寄ってくる足音が聞こえず、急に触られ驚き、時にびっくりして攻撃的になってしまう場合があります。少し大きな、高めの声で何度か呼びかける、手を叩く、急に触らない、近づく時は前から、等の点に気をつけてあげましょう。
視力が落ちてきたら
視力が低下すると、物にぶつかったり、段差を踏み外したり、恐怖心で落ち着かないなどの行動が見られます。視力が低下しても家の中の物の配置は覚えていますが、声をかけてガイドしてあげたり、家具などの配置にも考慮してあげましょう。
年をとって老いていくことは自然のプロセスであり、成長期、成犬(猫)期、高齢期という一連のライフステージの一つです。高齢になってもより楽しく、長く暮らせるように、その子の身体機能を配慮した生活環境を心がけましょう。